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VOL.60

ZEHマンション

新築マンションでZEH-M(ゼッチマンション)が増えている理由

執筆住宅ジャーナリスト 山本久美子

2023

8.16

2050年までにカーボンニュートラルを目指している政府は、住宅のZEH(ゼッチ)化を進めている。課題になるのは、一戸建てよりも創エネ設備の導入が難しいマンションだ。ところが近年、新築マンションでZEHマンションが増えている。

住宅のZEH化が加速するなか、遅れるマンションのZEH化

ZEHとは「ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス」の略。住宅の断熱性能を高め、エネルギー効率の高い設備を導入することで「省エネ」を図る一方、太陽光発電などを設置して生み出す「創エネ」で年間の一次エネルギー消費量の収支を「ゼロ以下」にする住宅のことだ。

菅政権下で、「2050年までにカーボンニュートラルを目指す」と宣言して以降、日本の住宅のZEH化が進んでいる。政府が描くカーボンニュートラルへのロードマップでは、2025年4月以降すべての住宅で最新の省エネ基準の適合を義務化し、2030年までには適合すべき省エネ基準をZEH水準に引き上げるとしている。

そのため住宅のZEH化が加速しているが、マンションの場合は、一戸建てよりもZEH化におけるハードルが高く、2021年度の集合住宅におけるZEHマンションの普及状況は、約7.4%(経済産業省・環境省「ZEHの普及促進に向けた政策動向と令和5年度の関連予算案」より)とまだ少ないのが実態だ。

一戸建てと違って高層化しているマンションは、太陽光発電設備などを設置する“屋上”を共有する住戸が多い。そのため、階数が多くなるほど発電する電力量ではマンション全体をまかなうことが難しくなるという課題がある。したがって、マンションにおけるZEHの定義は、階層が上がるに応じて実現可能な範囲で設定することが求められる。

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出典:経済産業省・環境省「ZEHの普及促進に向けた政策動向と令和5年度の関連予算案」より

マンションでは4つの定義でZEH化に対応

国が定めたZEHマンションの定義は4つある。まず、年間の一次エネルギー消費収支がゼロになる「ZEH-M」(ゼッチマンション)。このほかに、エネルギー収支はゼロ以下にならないが、「Nearly ZEH-M」(ニアリー ゼッチマンション)、「ZEH-M Ready」(ゼッチマンション レディ)、「ZEH-M Oriented」(ゼッチマンション オリエンテッド)があり、順に省エネ率の基準が緩くなっている。6階建て以上に適用される「ZEH-M Oriented」では、他のタイプに求められる太陽光発電などによる創エネの導入は条件になっていない。

また、ZEHマンションの場合は、共用部を含めて評価する「住棟単位」と専有部のみを評価する「住戸単位」のそれぞれで評価方法を定めているのも特徴だ。

マンションでのZEH化を加速させたい政府は、4つの定義を整理したうえで、「ZEHデベロッパー」を登録させ、ZEHデベロッパーが建設したZEHマンションに補助金を出すことで支援している。

具体的な補助事業の概要は次の図のようになる。1~3階建ての低層、4~5階建ての中層、6~20階建ての高層、21階建て以上の超高層に分けて、4つの定義を満たすものに対して、それぞれ上限額を設定した補助金による支援事業を用意している。

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出典:令和5年度 3省連携事業「ネット・ゼロ・エネルギー・ハウスの推進に向けた取り組み」より抜粋して作成

こうして補助金で支援することで、マンションのZEH化に伴う住宅価格の上昇を抑制し、消費者の買いづらさの軽減も図っているわけだ。

ZEH住宅を購入する場合、消費者側には「住宅ローン控除」において省エネ基準住宅よりも対象となるローン限度額が引き上げられたり、長期間金利を固定する「フラット35」の金利優遇制度【フラット35】Sで金利引き下げ幅が大きくなったりといった特典もある。

近年は、多少価格が高くなっても、カーボンニュートラルに資する省エネ住宅など環境に配慮した住宅に住みたいという意識が高いので、ZEHマンションへの関心も高まっていくことだろう。

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